オリコン個人提訴事件を憂慮する

昨年末から各所で報じられている通り、音楽マーケット調査会社最大手のオリコン株式会社は、フリージャーナリストの烏賀陽弘道氏に対し、名誉毀損による5000万円の損害賠償を求めて提訴しました。


http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20061225k0000e040013000c.html
毎日新聞。上記URLでは1/25現在読むことができません)
http://cc.msnscache.com/cache.aspx?q=5132551277635&lang=ja-JP&mkt=ja-JP&FORM=CVRE
(同じ記事のキャッシュページ)


個人が企業に名誉毀損で訴えられるケースは極めて異例のことです(個人が個人を、または個人が企業を訴える、というケースはままありましたが)。


この件について、オリコン社の小池恒代表取締役社長は2006年12月25日に下記のプレスリリースを発表しています。
http://www.oricon.jp/news/data/20061225.pdf


この文中にある

我々の真意は損害賠償を請求することではありません。上記のとおり、烏賀陽氏に「明らかな事実誤認に基づく誹謗中傷」があったことを認めてもらい、その部分についてのみ謝罪を頂きたいのです。その際には、提訴をすぐに取り下げます。

という一節は、看過しがたい問題を含んでいます。
つまりオリコン社は、経済的に脆弱なフリージャーナリスト個人に対し、その言論活動の誤りを認めさせる目的で、民事訴訟という手段に訴えたというわけです。損害賠償はそのお題目に過ぎない、とこのコメントは述べていることになります。
民事訴訟をその本来の目的(訴訟対象となる損害の回復、補償など)以外の目的で行うことは、「訴訟権の濫用」あるいは「濫訴」となり、民事訴訟法で禁じられております。


さらに通常、この種の言論活動に伴う名誉毀損訴訟は、当の出版物を発行した出版社や新聞社も被告に含まれ、その責任を著者個人と共に問うのが一般的です。
しかし、あえて出版社を除外し、烏賀陽氏個人のみに対して賠償請求を行ったオリコン社の異例の振る舞いは、「言論の自由への挑戦」などといった大時代的な言い方をせずとも、「弱いものいじめ」であることは明白です。


個人が提訴された場合、弁護士探しから始まって、訴訟費用の工面から、敗訴した場合の賠償金など、膨大な時間的・経済的・心理的負担がのしかかります。とりわけ烏賀陽氏のように、組織に所属せずフリーランスの立場で執筆活動を行っている個人は、すぐさま生活不安と直面することになってしまいます(裁判に対応している間、ろくに仕事ができないわけですから)。具体的には今回の場合、5000万円の損害賠償請求に応訴するためだけでも、弁護士費用や印紙代などを含めて100万円単位の費用がかかります(弁護士によって違いがありますが)し、弁護士費用は、仮に烏賀陽氏が勝訴したとしても戻ってくることはありません。
つまり、個人を対象に企業が行う提訴は、(たとえ敗訴や却下という結果に終わったとしても)その個人に実質的なダメージを与え、言論活動を縛る手段として機能してしまいます。


このような訴訟が正当なものとして受け入れられ、「うるさい」個人の発言者を黙らせるための手段として企業や組織が濫用するならば、個人の名前で公的なメディアで発言することのリスクが高まることは疑いをいれません。
それはわれわれの社会の基本的価値の一つである、自由な言論活動の保障を危うくするものであります。


以上の認識から、このブログは、本件について、烏賀陽氏の訴訟費用等を経済的な側面から支援する活動のために開設されました。
今後ここでは、管理人のボランティア活動によって烏賀陽氏へのカンパの受付と会計報告を行っていきます。


また、本訴訟の争点についての議論には、本ブログはタッチしません。つまり、このカンパ活動は、企業に比べて経済面で圧倒的に脆弱なフリージャーナリストを、主旨に賛同する方々からのカンパによってバックアップすることを第一の目的としています(つまり、「フェアな勝負」を可能にする土俵を経済面から整えることが目的です)。さらに、その活動を通じて、この種の提訴が「個人の言論活動への(経済的な面からの)実質的な抑制」として濫用されることを、僅かであれ押しとどめることができれば、と願っています。


この活動は、管理人が所属する団体や機関とは、一切の関係をもちません。ただ、烏賀陽氏を支援する複数の有志個人とネットワークを形成し、ゆるやかに連帯しながら活動しております。今回は、オリコン訴訟における烏賀陽氏への訴訟費用カンパが目的ですが、その余剰金などの使途として、将来的にはこの種の訴訟について発言者個人を支援するための基金やネットワークを組織していくことも視野に入れています(具体的なあり方は未定です)。
いずれにせよ、「発言者個人が訴訟に曝され、言論活動への威嚇効果となることを経済面から防止する」活動をわれわれは行っていきます。主旨にご賛同いただける方々からのご支援を賜りましたら幸いです。


あと数日後には、カンパの要領や専用口座についての情報をお知らせできると思います。いましばらくお待ちください。


管理人:増田聡 masuda.satoshi@nifty.com
大阪市立大学大学院文学研究科専任講師、音楽学者(ポピュラー音楽研究)
日本ポピュラー音楽学会理事
管理人のプロフィールの詳細については
http://homepage3.nifty.com/MASUDA/profile.html
をご参照ください。


上記賛同者有志(50音順)
後藤雅洋鈴木茂津田大介村井康司